絆
出雲耀/著
「もしかしたら・・・・・・」 あの記憶を忘れたい・・・・ ―消してしまえばいい― 「キミに会えてよかった・・・・・フェルア。大切な・・・・・」 思い出したくない! 「人間は・・・・・・。」 なぜ忘れられない? ―約束したから・・・・・― 「・・・また・・・この夢か」 途切れ途切れの夢。 夢では途切れているけれど、思い出すとすごく鮮明に覚えている。 朝の光が差し込んで来る。 あの夢をまた見た。思い出したくない夢を・・・・。 ベットの下から黒い猫が顔を出す。 「おはよう・・・・シュシュ」 「ミャー」 「ゴメンね、お腹すいてるよね・・・・。今作るから。」 「ミャオン・・・・」 心なしか鳴き声が自分を慰めるように聞こえた・・・・。 「じゃぁ・・・・行ってくるね、シュシュ」 「ミャー」 顔を隠すように、布を巻き少し汚れたローブを着て、黒猫に言った。 森の奥に住んでいれば誰も来ないと思ったのに・・・。 森から出る道を歩いている途中思った。 日の光。様々な色の鳥や蝶。青く澄み切った空。 どれもこれも今の自分には似合わない世界。 狂った私には。 ―なら、壊してしまえばいい― 自分の中に聞こえる声。もう一人の私の声。 約束したからできない。 でも、それだけじゃない。 私は気づいたから、アナタのおかげで・・・。 命の大切さを。失う悲しみを。 でも・・・・私はアナタとは違うから。人じゃないから・・・・。 いつかは・・・・変われるかな・・・?ルイ・・・・。 いつの間にか町に着いた。普段はもっと遠く・・・遠く感じていたのに。 町へ買出しに行った。普段はいけないから。違う、行かないだけ・・・・。 帰りの道。町からだいぶ離れたところを歩いているうち、誰かと肩がぶつかった。 「あ・・・ごめんなさい。」 とっさに謝った。 ぶつかられた相手のほうを見ると連れが7人ほどいて、全員が武器を持っていた。 「ゴメンナサイじゃすまねぇんだよ!」 一人が胸倉をつかんだ。 布が取れ、顔が見えてしまった・・・・。 『最も恐れていた事が起こった』 トクン・・・・・・・トクン・・・・・・トクン・・・・・トクン 鼓動が早鐘を打つ。もう一人の私が目覚めた。母方の血が。 鮮やかな蒼の目が・・・・赤色に変わっていく。 「お・・お前・・・・・その目・・・・。」 一人がつぶやくように言った。 「魔族だ!」 他の一人が叫んだ。 覚悟していたけれど、聞くたびに心が苦しい。 「貴方たちは見てしまった・・・・。そう私は魔族。」 心の奥から殺意がわき上がって来る。 「う・・・わぁ・・・た・・助けてくれぇ!!」 一人が叫んだ。 「貴様たちは所詮人間、私に勝てるわけがない・・・・。」 もう一人の私は笑っている。殺す事を楽しんでいる。 「あ・・・ぁ・・・・た・・たすけ・・・ぐあぁぁ!!」 ローブが鮮血に染まる。 気づいたときには魔法を使っていた。 自分を守るために?違うただ、怖かっただけ。恐ろしかった。 殺されると思ったわけじゃない。知られる事が恐ろしかった。あの記憶が蘇りそうで。 「逃げろ!殺される!」 倒れた仲間を連れ、全員逃げようとした。 ―こんなの望んでいないのに― 「逃がさない・・・・・・。」 自分が止められない。もう一人の私が、心の中の私が全員・・・・・。 殺してしまった。 だめだ、やっぱり私、魔族なんだ。人にはなれない、でも、魔族にもなれない。 森へ向かって歩き出す。現実から逃げていく・・・・。 しばらくして、人影が見えた。 今度は四人連れの人たちだった。大人びた女の人と少し背の低い女の子。 そして、大きな剣を持った男の人が二人。 私を・・・・殺しに来た? トクン・・・・・。 ―殺される前に殺せばいい― もう一人の私がまた言う。 見つからないように逃げようと思った。でも遅かった。 もしかしたら、私の・・・・もう一人の私の殺気を感じたのかもしれない。 「貴女もしかして・・・・・・・魔族のコ?」 少し背の低い女の子が恐る恐る聞いてきた。 「そう・・・・。私は魔族。殺さないの?この目を見れば分かるでしょう?」 落ち着こうとしても、蒼に近づいた目はまた赤へ変わろうとする。 「でも、貴女に戦う気はないんでしょう?なら私たちも戦わない。だよね?ルナ。」 少ししてまた女の子が言った。 その言葉を聞いた瞬間に目の色が蒼に戻る。 「確かにリアンの言うとおりかもな・・・・・戦う理由もない。」 ルナと呼ばれ、答えたのは大人びた女の人だった。 「ディンもランスもそう思うでしょ?」 またリアンと呼ばれた女の子がいった。 「確かに俺だって、意味のない争いはしたくない・・・・けど・・・。」 ディンといわれた、大きな剣を背負った男の人がいった。 戦わないなんて驚いた。今まであった人間はみんな、理由もなく剣を抜いてきた。 でも・・・・何かをためらっているような気がした。 わって入るように私は言った。 「貴方たちは私が怖くない?憎くないの?」 自分でも分からなくなった。聞いてしまった。 「どうして?貴女はきれいな目をしてるよ。どうして怖いの?どうして憎いの?」 またリアンが言った。 「だって・・・・私は・・・・」 言い終わる前に茶色の髪の人が言った。 「何があったか知らないけれど、なんとなく、その気持ち俺にも分かるよ。」 全部を見透かされているような気分だった。 「俺はランス。こっちはディン。で、こっちがルナ、こっちがリアン。君、名前は?」 茶色の髪の人が言った。 「・・・・私はフェルア。17才。」 ルイ。この人たちが居るなら私、この世界でもやっていけそうだよ。 「貴方たちには誤解してほしくないから聞いてほしい・・・・。」 ―8年前― 「母上!父上!」 「どうしたの?フェルア・・・。」 「今日、友達ができたの。ルイって言う男の子で、私と同い年なんだ!」 「そうか、誕生日に友達ができてよかったな。」 「それでね、とってもきれいな緑の目をしてるんだ。」 「フェルア、その子はどこの子なの?」 「人間の町の側の森に一人で住んでるって言ってたよ。」 そういった瞬間、両親の顔色が変わった。 「フェルア、その子は・・・・もしかして、人間なの?」 「そうだよ、それがどうしたの?」 「人間?人間だと?ダメだ!そんな者にあってはいけない!」 「どうして?何でダメなの?父上!それに、私が魔族だって事、ルイは知らないよ!」 「知らないならなおさらだ、知られたとき、悲しむのはお前だ。」 「いいことフェルア。よくお聞きなさい。人間と魔族は一緒に暮らせはしないの。」 「母上・・・・。どうして?何でなの!?」 「昔から、戦い続けてきたからよ・・・。フェルア、その子のことは忘れなさい。」 「嫌だ!友達に会えないなんて嫌!私出て行く!!」 「フェルア!待ちなさい、フェルア!!」 急いでいたので間違えて姉のローブを着ていたが、そのまま家を出て行った。 そのまま家へは帰らなかった。 ルイの住んでいる森へ行って、ルイと暮らした。 あの時までは・・・・。 「おはようフェルア。」 「おはよう、ルイ。」 「今日が何の日か分かる?」 「え?今日・・・・何日だっけ?」 「へへっ・・・。フェルアに見せたいものがあるんだ!」 照れくさそうにルイ言った。 「見せたい・・・もの?」 「この前、俺が昔の街道を通った時、拾ってきたんだ。」 「わっ、・・・・子猫?」 「そう、ツーテイルの子供。10才の誕生プレゼントだよ。」 ツーテイルとは、二つの尾がある猫のこと。まだ幼い子猫だった。 きっと・・・・親は人間に・・・・・。 考えるのをやめて私は言った。 「ありがとう。ルイ。名前をつけてあげないとね。」 「あぁ、そうだね。」 「・・・・・・シュシュ。今日からあなたはシュシュだよ。」 「ニャーン」 「いい名前だ。よかったな、シュシュ。」 その時からずっと、親の事なんて忘れて楽しく暮らしていた。あの時までは。 「シュシュも今日で3才だね。」 「そうだね、シュシュも立派になったね。」 「ねぇルイ・・・・。なんでもない。」 どうして家族が居ないのか聞いてみようと思った。でも・・・。 自分のことを話せないのに、聞くわけにはいかなかった・・・・。 あの時私が居なければ・・・・。 「フェルア!大変だ、町の奴らがこの森を焼こうとしてる。」 「どうして!?何で急に?」 「化け物が・・・・魔物が逃げてきたって言うんだ。」 化け・・・物・・・・・。 「最近町で化け物が出るとか、悪さをしていくって言うんだ。それでこの森に・・・。」 「そんな・・・・・・。この森には・・・・。」 魔物なんて居ない。そう言いそうになった。 でも、自分は魔族。化け物と同じ・・・・。 「とにかく、早く逃げよう!」 ルイは私が魔族だということを知らない・・・。 9才の時友達になってから4年たってもまだ本当のことを言っていない。 言ったら、友達で居られないから・・・・。 「フェルア!早く!」 「私・・・いけないよ。」 「なに言ってるんだよ!早く」 ルイはシュシュを抱き、私の腕をつかんで走り出した。 でも、途中で町の人に見つかってしまった。 「待て貴様ら!どうしてここに居る!」 「おい!みんな来てくれ!魔物が人の形を取っているかもしれないぞ!」 あっという間に囲まれてしまった。 「フェルア、お前だけでも逃げろ!」 「嫌だよ、嫌だ!どうして私だけ逃げなきゃいけないの?」 「こんなところに子供が居る分けない。やはり・・・。貴様ら魔物だな!」 ドスッ 鈍い音がした。ルイの顔が苦痛の表情に変わっていく。 町の兵隊だった。ルイは後ろから剣を突き刺された。 「ッ・・・。フェルア・・・逃げ・・・・・ろ・・・。」 ルイは倒れた。 「次はお前だ!」 別の兵が剣を抜いた。 私の中で誰かがささやいた。 ―自らを守れ・・・・やつを殺せ― 鼓動が早鐘を打つ。 兵が襲ってきた。間一髪のところでよけた。 ローブについていたフードが破れた。 目の色が変わっていく、澄んだ蒼から血の赤へ。 「こいつ!魔族か!?」 気づかれた・・・・。 私は絶望し、怒りに我を忘れた。 はっと我に返った時、町の兵は全員倒れていた。 急いでルイのところへ行った。 「フェルア・・・。泣くなよ・・・。もしかしたらって・・・思ってた。」 心が落ち着いていく・・・・。それと同時に目の色が蒼に戻る 「私が魔族だって、気づいてたの?」 「ああ・・・・。でもフェルアはフェルアだ・・・。」 「ルイ!嫌だよ、死なないで!」 「キミに会えてよかった。大切な事が・・・分かった・・・。」 「・・・・・・喋っちゃダメだよ、傷が・・・・・。」 「フェルア、泣くなって・・・・言ってんだろ・・・。」 「ルイ・・・、一つだけ教えて、アナタやどうして一人だったの?」 「魔族に・・・殺されたんだ・・・。でも俺、ぜんぜん恨んでなんかない。」 「ルイ、ごめんなさい・・・。ごめん・・・・なさい・・・・。」 「フェルアが謝ることじゃないよ・・・・。フェルア、今までありがとう。」 「ルイ、私・・・・ひとりになりたくない・・・。嫌だよ・・・。」 「この首飾りやるよ・・・。母さんの・・・形見・・・。」 「ルイ・・・・・、ルイ!!」 「本当に、ありがとう。フェ・・・ルア。」 そうしてルイは息を引き取った。 私は、焼けなかった森の残った部分に、ぶかっこうだっだけれどルイの墓を作った。 十字架にルイの母の首飾りをかけた。 「ルイさん・・・・きっと喜んでるよ。」 リアンが言った。 「俺も・・・そう思うよ。」 ランスも続けるように言った。 「私がその『ルイ』だったら、安心して親のところにいけると思う・・・。」 ルナが私の肩に手を置いていった。 「また、ルイみたいな人に会えるといいな。フェルア・・・。」 ディンが別れ際言った。 「みんなありがとう・・・。」 言い終わったら涙が出てきた。 ルイと同じ、人間の優しさを感じた。 「また来るからね、フェルアさん。」 リアンが言った。 「ありがとう。おいしいお茶とお菓子用意して待ってるね。」 私は言った。初めて・・・ルイ以外の人間に本当の気持ちを。 「それじゃ、さよなら、フェルアさん。」 ルナが言った。 「何かあったらここに来て・・・・・。協力するから・・・。」 これでいいの?ルイ・・・。 「ありがとう。」 リアンが笑いながら言った。 またいつかここで会いましょう・・・・・また。 もう目覚めてほしくない・・・もう一人の自分・・・。 『絆』~完~ |
出雲 耀さんのコメント |
重要な事を忘れてました。 本編にフェルアがハーフなんではないかと疑うような文章(?) がありますが、あくまでフェルアは純血魔族です。 ただ、お母さんの方の家系は、二重人格じゃないけど、ある一 線を越えると性格が変化するわけで。 お父さんはいたってふつ・・・・いたってふつう?まぁ、魔族 ですが、わりかしおとなしいですね。キレるまでは。 |