旅人珍道中

ルイン/著



ここは、スピーリアのとある町。
いつもの仲良し四人組は、戦いの疲れを癒すために、『遊びに』来ていました。


「わぁ〜すごい・・・いろんなものがあるね〜」
店のアクセサリーなどを見ながら、リアン・プリシスが驚きの声をもらした。
「・・・まあ、たしかにこれだけ品揃えがいい店もあまりないからな・・・」
そう言いつつも、売り物にまったく興味を示さず、
リアンの後から眺めているだけの、ルナ・イキシア。
「ルナも少し買ったら?せっかくなんだし・・・」
「でも、欲しい物とかないしな・・・無理に買う必要はないだろうよ。」
「まあ、そうだけど・・・・」
不満そうに口を尖らせた。
と、気に入ったものがあったらしく、
「わっ、見てみて!これ可愛い〜」
そう言ってルナに見せたのは、小さな子犬のぬいぐるみ。
まるで小さな子供のようにはしゃぐリアンに、ルナは苦笑し、
「買ったら?」と優しく問い掛けた。
「うーん・・・あ、でもこれも可愛いし・・・・」
なかなか決められない様子のリアン。
先を急かすほどの理由もないし、まだ時間はあるし、しばらくここに居てもいいか―――
などと考えながら、ルナはリアンの悩んでいる姿を眺めていた。


「なあ、ランス!あれ見ろよ!すっげ〜」
ディン・ステリアスが指した先には、三人のピエロがいた。
彼と一緒にいたランス・ブレインも、それに興味を示したらしく、
「へえ〜・・・すごいな」
ピエロ達はそれぞれお手玉をしていたり、玉乗りをしていたり。
ランスがそれを見ていると、肩を叩かれた。
「おいランス!なにか食べに行くんじゃなかったのか?」
あたりまえだが、それはディンだった。
本当に忙しい奴だな、と思いながら、
「いや、食事はルナ達と合流してからにしよう。」
「そういやぁ・・・あいつら、どこでなにしてるんだ?ちゃんと見つけられるのか?」
思わず溜息。
ランスが呆れたように、
「お前な、これだけ広い町で別行動するんだ。普通、集合時間を決めるだろ?」
ディンはそんなことは知らない、と言ったふうに、
「え・・・あと、どれくらい時間があるんだ?」
ランスが時計を探し周囲を見渡し、
「まあ、まだ時間はあると思うけど・・・」
やがて、時計を見つけ、
「うん、あとちょうど一時間だな。」
「一時間も!?」
ディンの声に答えるように、こくりと頷いた。
「げぇ〜・・・まだそんなにあんのかよ〜」
明らかにガッカリした様子のディンに苦笑し、
「そこらへんを見てまわっていれば、一時間なんてすぐだって。」
「ん〜・・・」



かれこれ一時間くらいはあの店に居た。
リアンはご機嫌な様子で、買ったものを眺めていた。
「うん、やっぱ犬のぬいぐるみって可愛いよね。いいのが買えてよかった♪」
良かったな、と軽く答え、ルナはついでに思い出したかのように、
「そういえば・・・集合時間、何時だったっけ。」
リアンが今ようやく気づき、「あ」と声をあげ、
「うーん・・・何時だったっけ?」
しばらく考え、やがて、
「まあ、まだいいだろ。それより、まだ見たいところがあったんじゃないのか?」
ルナの言葉に、さっきまで考えていた集合時間のことは頭から消える。
「あ、そっか。まだ行きたいところがあったんだ。ルナ、付き合ってくれる?」
「ん。どうせ一人でここにいてもつまらないしな。どこに行くんだ?」
リアンが嬉しそうに笑い、
「ええっとねー・・・」

もう二人の頭からは、集合時間などというものは、完全に吹き飛んでいた。



「なあ、遅くないか?」
ディンがなにげなく言ったその一言に、ランスは頷き、
「ああ、たしかに遅いな・・・・」
もう、集合時間から三十分近く過ぎている。
「どこにいるかとか、聞いておかなかったしな・・・。」
ディンが「ん〜」と気のない返事を返し、
「それより、腹減ったよな〜。」
まさかこの町で迷ったわけでもないだろう。
方向音痴のルナ一人だけならともかく、リアンもいるのだ。
その可能性はないはずだ。
まぁ、とりあえずもう少し待ってみよう。
そう思い、大きく息を吐いた。




可愛い洋服とかいうのは、嫌いというわけではないが、もともと自分には合わないと思う。
だが・・・
「ルナ、これ可愛いよ。ルナに似合いそう!着てみてっ」
リアンの言葉に、適当に返事をする。
「や・・・まあ、リアンのだけでいいよ。私、そういう可愛い服とか、あんまり・・・」
実を言うと、自分の好き嫌いだけではない。
冒険者というもの、服をたくさん持てばそれだけ荷物になるし、
『戦い』においてチャラチャラしたものは邪魔になるだけでもあり、
結果的に服など気にせずいつでも戦えたほうがいいという思考から、いつも『そういう』服など着ていないのである。
・・・女らしさのカケラもないと、言うなかれ。彼女なりに考えた結果、である。
「そーなの?・・・・あ、これとかは?可愛い系でもないし、いいんじゃない?」

「たしかにいーわねぇ」

突然聞こえたその声に、2人は思わず振り返った。
「あ・・・・・レン、さん」「うわっ・・・オカマ野郎・・・・・」
それぞれの特徴のうかがえる第一声。
レンさん、と言われた男は、ルナの言葉どうりオカマであり、一応立場的には彼女達の敵、ということになる。
「・・・何の用だオカマ。ここは町中だぞ」
ルナの明らかに警戒の混じった声に、しかしレンは、
「やーねぇ。いっつもいっつもそんな乱暴なこと考えてるわけ?今日はお休みなのよ。たまにはお洒落な洋服を着たいっていう乙女心じゃなーい。」
ルナは乙女じゃないだろう、という内心のツッコミを抑えながら、
「・・・四天王にお休みもなにもあるのか?」
リアンも不思議そうに、
「うん。私、四天王ってお仕事じゃなくて、肩書きみたいなものだと思ってたけど・・・・」
レンがなんでもないことのように答える。
「もう、いちいちつっかかってこないでよねぇ。別にいいでしょ。何にでもお休みは必要よ。」
なにかいまいちわからないが、リアンは「あ、そっか」と納得している。
ルナの考えなど知らず、レンは、
「これなかなかいーんじゃない?アタシのような魅力的な女性にピッタリよ。ま、アタシにはなんでも似合うけどね」
ツッコミ所満載な事を言いながら、いろんな服を物色している。
ルナは、―――男なのに女の服売り場に来ていいのか―――
そう聞きたいが、なにやら聞いてはいけないことのような気がして、やめることにする。
「うーん・・これなんかいいんじゃないですか?レンさんにすっっっごく似合いそうですよ」
「あらっ。・・・・ふーん、なかなかいいじゃない。アンタ、見かけによらずセンスあんのね。ま、私には負けるけど。」
意気投合しているリアンとレンを眺めながら、ルナは呆れたような表情を浮かべた。




――――――遅い。
いくらなんでも遅すぎる。
一体どこで何してるんだという怒りよりも、寧ろここまで遅れると逆に心配になってくる。
ランスは、時計を見る。
集合時間から、二時間も過ぎている。
探しにいこうぜ、とディンが言ってきたが、その案は承諾できなかった。
この広い町中、人間2人探し出すというのはなかなか困難で、下手にここを動いてすれ違いになっても困る、と思っていたからだ。
しかし・・・・遅すぎる。
「なあ、やっぱ探しにいったほうがいいんじゃねぇか?」
ディンが話し掛けてくる。
「・・・ああ。随分、遅いしな。とりあえず、片っ端から探し」
てみよう、と続くはずのランスの言葉を、遠くから響いた声が遮った。
「おぉーーい!ディーンッ!!ランスーーー!!」
聞き覚えのある声とともに、2人がこっちにゆっくりと歩み寄ってきた。
「ディン、見てみて!いっぱい買っちゃった。」
「まあ、しょうがないよな。あれだけ進められちゃあ」
「うん・・・でも、いいのばっかり。安かったし」
「そうだな。」
リアンとルナ、2人の会話を聞きながら、ランスが恐る恐ると言ったかんじで、
「えっ・・と・・・。どこで、何してたんだ?お前ら・・・」
それを聞いた二人が、一気に振り返る。
「え?買い物・・・だよ?」
「そういうお前らこそ、こんなとこでなにしてるんだ?」
リアンとルナの言葉を聞き、しばらく唖然とし、やがてディンが口を開いた。
「なっ・・・集合時間はどうしたんだよ!?」
・・・・・リアンとルナの表情が同時に何かを思い出したように変わる。
「あ、そういえば・・・・」
「悪い、忘れてた。」
単純かつ明確なルナの返答に、思わずディンとランスは脱力してしまった。
「あのな・・・約束しただろ?もう二時間は過ぎてるぞ?」
ランスの言葉に、言い訳のようにリアンが、
「うーんとね・・・・ちょっと、知り合いと会っちゃって・・・いろいろ話てきちゃったんだ〜・・・」
「知り合いって誰だ?」
間髪いれず訊いてきたディンに、リアンはしばらく悩み、
「女の人で・・・ディン達も知ってる人、かな・・・・」
正確には、いや、誰から見ても男だ、と内心でツッコミをいれながら、ルナは、
「まあ、とりあえずどっかで食事でもしないか。そこで詳しく話すから。」
皆もそれに賛成し、近くの店に入ることにする。



今日はとっても良い一日。
〜とっても平和な、仲良し四人組の珍道中〜


                        『旅人珍道中』〜完〜


ルインさんのコメント
はい、すみません。
ぶっ壊しました、キャラとかいろいろ。
書いてて楽しかったんですが、しかし見ているほうが面白いはずがない。
うう・・・ごめんなさい。もうしません。
・・・・多分。